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遷ろいゆく関心事を書き留めていく

『触発する図書館―空間が創造力を育てる』 図書館本の読書メモ vol.5

触発する図書館―空間が創造力を育てる

触発する図書館―空間が創造力を育てる

これからの新しい図書館に期待される諸要素について、大串夏身さん、高野洋平さん、高木万貴子さん、鳴海雅人さんの4人が、約1年をかけてブレストを行い、それぞれが提案する多彩なアイデアが紹介されています。見開き1ページに1アイデア、という形式で、テンポよく最後まで楽しく一気に読み進められました。各アイデアには、イラストレーター・高野香織さんによるイメージ画がつけられていて、アイデアをよりビジュアル的にイメージしやすくなっています。

 

これからの図書館像 - 触発する図書館

本のタイトルにもなっている「触発する図書館」ですが、第1章の「5 触発する図書館ー知識・物語・情報と人を結び付ける」で、これまで図書館員が行なってきたカウンターでの貸出・返却に関わる業務が自動貸出・返却機に置き換えられていくことや、利用者からの質問事例がデータベース化され、知りたいことを利用者自身が検索してヒントを手に入れたり回答を得たりしていくようになっていくであろうことを前提に、以下のように述べられています。

いままで図書館員がやっていたことが、新しい技術に取って代わられつつあります。図書館員は、カウンターのなかにいるのではなく、フロアーに積極的に出ていって、利用者とのコミュニケーションを図るべきでしょう。図書館員が積極的にはたらきかけて触発する。本棚の間を回って利用者からの質問に答える。利用者は、本棚の前に立っているときにいろいろなことを考えるものです。疑問や相談したいことが浮かんだりするものです。気軽に声をかけてもらえるようにすれば、いろいろな質問が寄せられるようになるでしょう。困っている利用者には積極的に声をかける。図書館員が利用者にはたらきかけて触発する機会は、このほかにもいろいろなことが考えられます。

建築や空間としての図書館が今までと同じであったとしても、今までの図書館像とはだいぶ違った場所になりますね。利用者の能動的な知的探検をベースにしながら、図書館員が積極的に利用者にはたらきかけていく、というのはたしかに「触発される」場所になりそうです。

また、続く「6 地域づくりを支える図書館へ」にも、これからの図書館の進むべき方向性が以下のように示されています。

図書館のなかに人と人の交流の場を作ることは、図書館が地域の知識・知恵の創造の場となることを意味しますし、図書館員がコーディネーターになって意識的に人と人の交流を生み出すこともできます。地域社会をよりよいものにしていく地域の知識の宝庫としての公共図書館があり、図書館を活用してよりよい地域社会を作ることができます。生涯学習を支援する図書館から地域づくりを支える図書館へと進んでいくことができます。

例えば、子育て中の母親が育児に関する悩みを解決するための情報を得ようと図書館に訪れたとき、図書館員が本や雑誌を紹介するだけでなく、「水曜日の午前中には、たいてい児童コーナーで数人のお母さんたちが集まっているし、そのあと近くのカフェで情報交換もやっているようですよ」といったことを伝えてくれる、こんな図書館があったら素晴らしいですね。

 

新しい図書館像のアイデア

第2章からは、これまでにない新しい図書館のアイデアが、イラストレーター・高野香織さんによるイラストとともにたくさん提案されています。

 

図書館の新しいスタイルをつくるアイデア

まず、「0 新しい図書館を探る視点」では、図書館全体として新しいスタイルとなりうる9つのアイデアが提案されています。どれも面白い発想ですが、個人的に特に気になったアイデアを2つ取り上げてみます。

「002 均質な大空間から多様な空間の集合へ - キャラクタリスティック・スペース」
必要な量の書物を効率的に収めることに終始し、機械的に書棚を並べただけの均質な空間としての図書館は、なにか無表情なオフィス群に通じるところがあるのではないでしょうか。(中略)「哲学書のスペース」は、思わず思索にふけってしまうような静寂な空間、「美術書の場所」は、その美しい装丁が目に飛び込んでくるような視覚に訴える空間、「絵本のスペース」は、生き生きとした物語の世界に引き込まれてしまうような楽しさがあふれる空間、といったように、そこに所蔵されるそれぞれの書物の個性が多様な空間の質を生み出すことでしょう。

たしかに、ほとんどの図書館では、医学書も、文学書も、美術書も、同じタイプの書棚に収められ、空間の変化もありませんね。これはぜひとも実現されてほしいアイデアです。

「005 情報収集から情報発信の場所へ - 発信、倍返し」
インターネットの普及によって、情報発信の形態は一局型のツリー構造から、他局型のリゾーム構造へ転換しつつあります。誰もが気軽に自分のブログを公開し、それを見ることができます。あらゆる情報が個人のウェブサイトによって公開されています。(中略)図書館では、出版された本を取り揃えることが今後も主な役割になることは間違いないと思われます。しかし、情報発信の媒体が多様化した今日的状況のなかでは、図書館のあり方も変化を余儀なくされることでしょう。例えば、図書館が立つ街の情報は、その街の住人がいちばんよく知っています。個人が発信する情報を、図書館が集積するシステムを持てば、図書館は個人の情報発信のハブになりうるのです。 

これも素晴らしいアイデアですね。たしかに、地域情報を発信するブロガーはたくさんいますし、Twitterでも地域のハッシュタグでゆるい情報交換が行われていたりもしますが、そういった地域に根ざした情報を図書館をハブにして集積・発信していくようになったら、「初めて訪れた街に着いたら、とりあえず図書館に行ってみる」というのが当たり前になるかもしれません。

 

図書館の新しい空間をつくるアイデア

第2章の2節目は、具体的な「図書館の空間」について。書架の配置や、閲覧席、グループ室、音・光・空調環境、インテリア、サイン、などについて15のアイデアが提案されています。こちらも、特に気になったアイデアを2つ取り上げてみます。

「106 コミュニケーションが生まれる閲覧席 - 本は人の絆を作る」
親が子に本を読んで聞かせることは、親と子が一つの同じ世界を共有することにほかならないのです。(中略)子どものコーナーには、ちょっと囲まれた領域感のある閲覧席が似合います。親密なスペースは、親子の読み聞かせの雰囲気をやわらかく包み込んでくれることでしょう。ティーンズコーナーには、みんなが向かい合って座れる閲覧席が似合います。友達同士がそれぞれ思い思いに本を読んでいながら、読んでいる本になんとなくお互いが刺激を受けるのです。

このアイデアのイラスト画は、二人がけのソファ席で親子が一緒に本を読んでいる様子です。児童コーナーや読み聞かせのための部屋がある図書館はたくさんあっても、「二人がけソファ席」が複数用意されている図書館はあまりないのではないでしょうか。ちょっと広めのスペースが必要になりますが、二人がけソファ席がある図書館っていいですね。恋人同士や、親子三人で並んで読書、なんていうシーンも想像できます。

「113 図書館に求められるインテリアとは - 脱インテリア」
「建築」と「インテリア」は分離した関係ではありません。2つの概念はひと続きのものなのです。(中略)入居する店舗が変化することを前提とした商業施設は、建築とインテリアが分離することを前提としている点で逆説的です。(中略)では、図書館はどうでしょうか。ともすると商業施設とは性質が全く違う図書館も「インテリアは化粧」という考えに陥っていないでしょうか。

たしかに、千代田区立千代田図書館や、新宿区立四谷図書館のように、ビル内につくられる図書館は、テナントがインテリアをつくることを前提として建てられた建物を使うことになるので、書架にしろ、居室にしろ、多くの図書館独自の要素を「化粧」して配置しなければなりません。建物として独立し、なおかつ"図書館らしさ"を建物全体から感じられる図書館に入ったときに感じる「わくわく感」が、オフィス用ビルの中につくられた図書館の場合にやや薄れてしまうのは、このあたりが原因なのかもしれません。

 

図書館の新しいコミュニケーションをつくるアイデア

第2章の3節目は、「図書館員とのコミュニケーションのかたち」について。利用者サービスや情報ナビゲーションなどについて8つのアイデアが提案されています。こちらは、特に気になったアイデアを1つだけ取り上げてみます。

「208 図書館で働くこと - 舞台裏を見せる」
図書館員の一日をどのようにイメージしますか?カウンターに座っている様子でしょうか。そのイメージをまず払拭してください。私たちが利用する場合、図書館の表の顔しか見ることができません。しかし、一日、図書館員の密着取材をおこなえば、絶えず動き回る図書館員の舞台裏がわかります。(中略)図書館では、利用者エリアだけでなく、事務員やスタッフラウンジの充実など“図書館員の居場所づくり”が大切です。バックヤードという壁を取り払って、利用者に見せる図書館員の活動の場があってもいいのです。

これはひょっとしたら実践されている図書館もあるかもしれませんが、図書館の舞台裏はぜひとも子どもに見せてあげたいシーンです。(もちろん、私も見てみたいですが。)きれいに並べられた書架の本は自然とそうなっているわけではなく人の手で整理されていることや、本のクリアカバー掛けや修理などの様子を見れば、いい加減な場所に本を戻してしまったり、本を乱暴に扱ったりしなくなりそうです。

 

図書館の新しい情報リテラシーをつくるアイデア

第2章の4節目は、「情報リテラシー ー 新しい技術の活用」について。情報メディアやアーカイブス、ICタグによる図書館情報システム、自動貸出・返却機、自動出納書庫などについて6つのアイデアが提案されています。この節に関しては、この本が発行されたのが2010年4月で、3年が経過していることをふまえておく必要があります。電子書籍の普及度合いにしろ、ICTの進化・変化にしろ、当時とはやや状況が異なっていますが、気になったアイデアを1つ取り上げてみます。

「302 映像資料をつなぐ地域アーカイブス - 消えゆく「記憶」を「記録」に」
インターネット上では画像・映像情報があふれ、私たちはそれを簡単に閲覧することができます。しかしそのランダムな情報は、生まれては消えていく一過性のものであり、あるテーマに沿って収集し、保存する役割を担っているものではありません。そこで図書館には、「地域の記憶」を「記録」にして残すという、地域の情報拠点としての役割があります。 

「地域の情報拠点」という役割を担うことで、地域ごとに図書館ができ、地域に根ざした活動が展開されることの“意味”がでてきますね。

 

図書館の新しいビジョンをつくるアイデア

第2章の最後、5節目は「拡張する図書館」について。新しい図書館のビジョンや、既存の図書館像の枠組みを大きく超えたアイデアが10提案されています。最も強く共感したアイデアを1つ取り上げます。

「406 新しい社会性の獲得「もっと刺激的イベントがあっていい」 - 都市のエンターテイナー」
図書館はそれ自体が強烈なブランド(LI; ライブラリーアイデンティティー)であり、もっと都市のエンターテイナーとして、一般市民に認識され、より共有されなければなりません。(中略)市場原理にさらされた民間の書店をもっと見習うべきです。そして、マーケティング手法を駆使し、宣伝効果を上げ、他館と競うなど、集客のための商業的感覚の導入も必須です。普段図書館に足を運ばない人が来館してはじめて、新たな価値が高まるのです。新規顧客開発の発想こそ図書館には重要です。 

この意見には賛否両論あるかもしれませんが、私は賛成です。公共図書館であっても(もしかしたら公共図書館こそ)、時代に見合った価値を住民に提供しなければいけないと思います。以前は、図書館は「本」や「資料」を探しに行く場所でしたが、現代の市民が図書館に求める価値はそれだけではないはずです。「子どもと一緒に週末に遊びにいくコースの一部」なんていう捉え方をしている『図書館クエスト』をやっている私がいい例です。こういう従来とは異なる図書館へのニーズは、さまざまな形態で存在しているはずです。

 

エピローグより

鳴海雅人さんによる巻末のエピローグにも、目にとまった一文がありました。

この本づくりを通してより深まった理解は、オフィスなどの一般の建築以上に、図書館建築では、新しい「かたち」や「形式(スタイル)」が、図書館運営の新しい「使い方」や「活動」を強く喚起するということです。 (p.135)

なるほど。だからこそ、図書館は建物そのものを見学しに行くだけでも楽しめるし、館内での読書体験や活動によって館ごとの違いや個性を感じられるのかもしれません。図書館クエストをやっていく上で、「読んでよかった!」な一冊でした。

 

*** あとがき ***

図書館が「触発する空間」になっていったとき、利用者側もこれまでとは異なる姿勢で図書館を利用する必要があるように感じます。どれだけ積極的に図書館員が利用者にはたらきかけたり、アイデアの閃きを誘発する空間の工夫があったとしても、ただそこに行きさえすれば触発されるというわけではないので、利用者側も「触発されやすい状態」になっていることが求められるのではないでしょうか。ふらっと立ち寄ってまったり時間を過ごすのも図書館での過ごし方のひとつではありますが、良い刺激を受け、触発されるためには、やはり様々な方向に知的探究心のアンテナを向けておかないといけないような気がします。